江戸時代から続く東京・日本橋大伝馬町のお祭り「べったら市」は、日本橋にある2つの神社の例大祭です。そして名物「べったら漬け」が販売される秋の恒例行事。
多くの屋台が出店し、通りは歩行者天国になります。御神輿が担がれ、盆踊り大会が開催されたりする様子も風物詩となっています。
ここでは、過去に開催されたべったら市の様子、そしてべったら市の歴史や見どころを紹介します。
※この記事は2019年10月に行った取材を元に制作しています。最新の状況と異なる場合がありますので、お出かけの際は公式サイト等で情報をご確認ください
※2025年9月、一部情報を更新しました
江戸時代から続く「べったら市」とは?
「べったら市」は、毎年10月19日・20日の2日間にわたって、東京メトロ日比谷線の[小伝馬町駅]から[人形町駅]までのエリア(日本橋本町、大伝馬町付近)一帯で開催されます。期間中はエリア一帯が通行止めとなり、約400の露店が並び、大賑わいとなります。
もともとは宝田恵比寿神社の例大祭
「べったら市」は、東京・日本橋本町にある神社「宝田恵比寿神社」の例大祭が始まり。日本橋本町一帯は、江戸時代に幕府のお膝元として整備され、商業が大変盛んな場所でした。和服の木綿屋、東京湾から届いた魚介を売る魚屋、現代まで続く紙商……と、さまざま店があったのです。
そして毎年10月20日に、商人たちを中心に商売繁盛や家内安全を願う行事「えびす講」が催されてきました。「えびす講」というのは、恵比寿神の信者たちによる集会や行事のようなもの。恵比寿神は商売繁盛の神様なので、商人たちは集まってお供え物をし、商売繁盛を祈りました。
毎年10月19日・20日に開催される「べったら市」
前日から露店が出るようになり……
10月20日の例大祭に使う道具などを販売する露店を前日の19日に出していたことから、次第に祭りが大きくなり、2日間に渡って開かれる「べったら市」へと発展していきました。
どういうわけかべったら漬けが露店で販売されるようになり、次第にべったら漬けの販売を中心としたお祭りとして広まっていったのです。
ずらりと屋台が並ぶべったら漬けの屋台
べったら漬けってどんなもの?
江戸時代から食べられてきたべったら漬け
現在のべったら市では、飲食店などの屋台も多く出店していますが、歩いてみると、べったら漬けの露店が多数目に留まります。べったら漬けをたくさん購入する人のために、郵便の配送受付ブースが設けられているほど。
べったり付くから「べったら漬け」
「べったら漬け」というのは、大根を飴(砂糖)と糀(こうじ)に漬けて作られる漬物です。宝田恵比寿神社の例大祭の際に販売したのが起源といわれています。
昔は買ったべったら漬けを、紙やビニール袋に包むのではなく、縄で縛って持ち運んでいました。しかしそうすると、参詣に訪れた女性の着物に漬物がべったりと付いて汚れてしまう、というわけで「べったら漬け」と呼ばれるようになったとされています。その様子が例大祭でよく見られていたことから、縁日と例大祭が「べったら市」という名称になったのですね。
糀と砂糖で漬けたべったら漬け
みずみずしさが美味しさの秘密
大根の漬物、と聞くとたくあんをイメージする人も多いかもしれませんが、べったら漬けはたくあんよりも甘いのが特徴。
たくあんは干した大根を使っていますが、べったら漬けでは大根を干さないため、カリッとした食感ではなく、水分を残したシャリシャリとした食感が楽しめます。
水分を多く含んでいることから賞味期限がたくあんよりもずっと短い(おおよそ1週間程度)ため、購入したらなるべく早く食べるようにしましょう。
べったら漬けは江戸時代最後の将軍・15代徳川慶喜も愛した漬物。べったら漬けの独特の風味が、当時の将軍様をも虜にしていたのですね。
べったら漬けの人気屋台・平均的なお値段
樽に入って売られているべったら漬け
べったら漬けを販売する屋台の中でも大人気なのは、宮内庁御用達の老舗「東京新高屋」。東京新高屋のべったら漬けは甘みと塩味のバランスが絶妙で、そのまま食べても、細かく刻んで納豆などと混ぜていただいても絶品。
べったら漬けはどのお店でも、1本あたり平均1000円〜で購入できます。皮付きと皮なしがありますが、べったら市のほとんどのお店では皮なしのみを販売。もし皮付きを見つけたら、ぜひ試食してみてください。皮のカリッとした硬さが残っており、皮なしとは異なる食感を楽しめます。
皮付きのべったら漬けを販売している屋台も
お土産用は配送が便利
べったら漬けをたくさん購入するなら、べったら市の一角に設けられている郵便局の配送受付を利用しましょう。べったら漬けは甘い香りがしますので、袋詰めしてもらっただけでは持ち帰る際に匂いが気になってしまうことも。
公共交通機関を利用して移動する人、べったら漬けを贈りたい人にはぴったりのサービスですね。受け付けは、両日18:00までです。
日本橋郵便局が配送受付を実施
【レポート】べったら市の見どころ&楽しみ方
毎年10月19日・20日に開催されるべったら市。べったら漬けの販売も多く行われていますが、そもそもはえびす講が始まりですので、お祭りらしい華やかなイベントが多数催されます。
以下からは、編集スタッフが2019年のべったら市に参加した際の様子をお届けします。
提灯がともり華やかな雰囲気のべったら市
1. 400を超える屋台からお気に入りを見つける
べったら市が開かれる日本橋本町三丁目、大伝馬町一帯の多くは歩行者天国となり、400軒以上の屋台が店を開きます。2019年のべったら市は土日開催だったこともあり、特に大賑わい!
屋台で食べ物、飲み物を購入し食べるだけでも十分に楽しめるほど、さまざまな露店が並んでいました。
多くの人で賑わうべったら市
べったら市には、チョコバナナやお好み焼きといったお祭り定番の屋台もあれば、巣鴨地蔵通り商店街の「とげぬき地蔵尊」目の前に立つ人気の屋台「松宮商店」の出店も。こちらは名物の「自家製 七味」を販売しており、自分好みの七味を作ることができます。
自分の好きな調合で七味を作ることができる
2. 老舗の屋台を楽しむ!
べったら市にある400以上の屋台のなかには、都内の老舗たちののれんも見られます。
例えば、椙森神社の目の前の通りには、すき焼きの名店「人形町今半」の屋台がありました。屋台ではメンチカツや肉まんを購入できます。
椙森神社前に構える「人形町今半」の屋台
その近くには、京粕漬で有名な「魚久」ののれんが見えます。奥にずらりと並ぶ列は、すべて魚久の粕漬を求めて待つ人たち。べったら市限定の特別価格で販売されるとあって、長蛇の列ができています。
「魚久」では名物の粕漬をべったら市限定価格で購入可能
そのほか、大伝馬町に店を構える刷毛(はけ)・ブラシの老舗「江戸屋」も、店舗の前に商品を並べて出店。こちらもべったら市だけの特別価格でタワシやブラシが買えるということで、大勢の人で賑わいます。16:00ごろに訪れたのですが、すでにいくつかのブラシは売り切れてしまっていました。
人気のヘアーブラシもおトクな値段に!
べったら市ではこのように、都内の老舗たちがこの日だけのメニューや特別価格で屋台を構えていることが多く、思いもしなかったおトク商品に出会えるかもしれません。
3. この日だけの御朱印をいただく
参詣客が集う宝田恵比寿神社
縁日のメインとなる宝田恵比寿神社では、このべったら市開催中に御朱印を受けることができます。お参りを済ませたら、隣の駐車場裏に続く御朱印の列に並びましょう。「べったら市」と書かれた特別な御朱印をいただけます。
べったら市はそこかしこに宝田恵比寿神社までの案内が置かれていますが、なかなか見つけられないという人は、宙に浮かぶ大きな赤い提灯を目印にしてみてください。宝田恵比寿神社の目の前に毎年掲げられる提灯で、大きく「べったら市 宝田恵比寿神社」と書かれています。
べったら市の大きな赤い提灯が宝田恵比寿神社の目印
宝田恵比寿神社と一緒にこの2日間にえびす講を行うのが、日本橋のもうひとつの恵比寿神を祀る神社「椙森神社」です。宝田恵比寿神社から徒歩約5分、堀留町に位置する椙森神社でも、御朱印を受け付けています。
堀留町に立つ椙森神社
こちらは石造りの鳥居が目印。御朱印は「椙森神社」と「椙森恵比寿神」があり、それぞれ初穂料500円で受けることができます。
右 / 宝田恵比寿神社御朱印、左 / 椙森神社御朱印(どちらも初穂料500円)
4. 御神輿で盛り上がる!
祭りといえば、やはり御神輿(おみこし)。煌びやかな装飾を施された御神輿を担いで道を練り歩く姿は、見ているこちらも気分が上がります。べったら市では、19日の夕方から御神輿が担がれます。
まずは小学生たちによる、子ども御神輿。スタート地点は宝田恵比寿神社の目の前です。あたりが徐々に暗くなり始めた16:00ごろ、デンデンと太鼓が鳴り響き、その後ろを子どもたちが御神輿に繋がるロープを持ちながら歩き出します。子どもたちの元気の良いかけ声が辺りに響き渡り、「祭り」らしさ満載です。
太鼓を先頭に、御神輿を引いていく
子ども神輿が大伝馬町一帯を歩き終盤に差し掛かった頃、今度は大人による威勢のよい御神輿が担がれます。子ども神輿とは違う威勢の良い掛け声に、周囲は思わず足を止めてその様子を眺める人でいっぱい。べったら市で街全体が一体となるのを肌で感じられます。
威勢の良い大人神輿
5. 今年最後の盆踊りに参加する
べったら市2日目の10月20日の夜には、盆踊りも開催されます。べったら市で行われる盆踊りは、都内で開かれるその年最後の盆踊り。少しずつ肌寒くなってきた10月後半に開催される盆踊りもなかなかオツなもので、少し遅れた夏の締めくくりになります。
おわりに
江戸時代から続く伝統と歴史あるお祭り「べったら市」。大伝馬町エリア一帯が大盛り上がりとなるこの2日間は、今もかつても、えびす講として都内に残る伝統文化のひとつです。
お気に入りのべったら漬けを探したり、有名店が手がけるこの2日間だけの特別な商品を購入したり、御神輿や盆踊りを楽しんだり……思い思いの過ごし方で、べったら市を楽しんでみてください。