東京都内には、「今」を体現するスタイリッシュな建築物がさまざまあります。そんな中、毎日多くの人が行き交う常に最新のスポットでありながら、かつての面影を残すレトロな建物が残るエリアでもあるのが「丸の内」と「銀座」周辺。
東京の玄関口であり、オフィス街である丸の内と、最先端を進む商業施設が集う銀座。タイプの異なる2つのエリアにも、思わず写真を撮りたくなってしまう、現代に溶け込みながらも異彩を放つ建築物が多く残っています。
今回紹介するのは、そんな丸の内と銀座、2つのエリア観光の際に外せない素敵なレトロ建築物5選。それぞれの時代を遡りながら建築的な魅力を探り、歴史を感じる壮大な造りを写真に収める旅に出かけましょう。
丸の内・銀座エリアってどんなところ?
「東京の中心」というにふさわしい場所、それはまさしくこの「丸の内」エリアといえるでしょう。多くの人が東京に降り立つ最初の場所であり、東京から離れる最後の場所でもある「東京駅 丸の内駅舎」をはじめ、このエリアには、東京と共に歴史を刻んできた建造物たちが多数残っています。
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丸の内駅舎周辺にはオフィス街が広がる
東京駅丸の内駅舎をはじめ、近辺では日本を代表するような立派な建築たちを保存する活動を積極的に行ってきたこともあり、保存・再生によりかつての美しさを現代に残す建物に出会えるのです。
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そして丸の内から徒歩15分ほどに見える、常にスタイリッシュでモダンで、流行の最先端を歩いてきた「銀座」エリア。このエリアでは、常に新しく生まれ変わっていくビルたちの間で、今なおかつての姿を残したまま佇む貴重な建造物が見られます。
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ショッピング街として連日多くの観光客が集う銀座エリア
東京の「今」と「昔」が融合しながらコントラストを感じられる様子を、建築から見られるこの2つのエリア。今回は、丸の内エリアと銀座エリアでぜひ写真におさめたい、歴史を感じるステキな建築に出会いに行ってみましょう。
丸の内・銀座エリアで歴史感じるフォトジェニックな写真を撮ろう
旅のはじまりは、銀座から。銀座の建物を見たのち、京橋を通り、そのまま丸の内へと向かいます。最後を締めるのは、もちろん東京の玄関「東京駅」。1時間半程度の散策で、5つの建物たちを巡っていきましょう。
■START:東京メトロ有楽町線 銀座一丁目駅 9番出口
1:ヨネイビルディング
↓徒歩(約2分)
2:奥野ビル
↓徒歩(約14分)
3:三菱一号館美術館
↓徒歩(約2分)
4:KITTE
↓徒歩(約1分)
5:東京駅 丸の内駅舎
■FIN:東京駅
モボ・モガの記憶を現代へ「ヨネイビルディング」
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森本松之助が手がけた「ヨネイビルディング」
東京メトロ有楽町線、銀座一丁目駅9番出口(または11番出口)から徒歩すぐに位置する「ヨネイビルディング」。1929年に建てられたこのビルは、建築家・森山松之助が手がけたものです。日本ではあまり名の知られていない森山ですが、彼が活躍したのは日本統治時代の台湾。
台湾総督府営繕課在任中に、旧台湾総督府(現台湾総統府)をはじめとしたさまざまな建築を台湾の地に手がけ、残した人物です。日本人よりも台湾の人々にとっての方がなじみ深い建築家といえるでしょう。
一見、非常にシンプルな石造のヨネイビルディングですが、注目すべきは1階部分。建築当時の姿をよく残した、ロマネスク風の意匠といえるアーチの窓とらせん模様を描く柱が印象的です。
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上品なデザインがかつての銀座の様子を表している
竣工時はちょうど銀座が東京屈指の商業エリアとして大きく発展しているころ。
当時街を闊歩していたモガとモボ(モダン・ガールとモダン・ボーイ)の姿が見えるかのような、ちょっぴりレトロな西洋様式を取り入れた姿が美しいですね。アール・デコやルネサンス様式とは異なり、シンプルで上品なデザインが銀座の街に溶け込みます。
2階以上の外壁は、かつてはテラコッタのタイル貼りとして誕生したものの、現在はモルタルで素朴な仕上がりに。2階以上が現代らしい直線的なビルである分、より1階の曲線とタイルが織りなす中世ロマネスクの意匠が映えます。
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柵ももちろんロマネスク風のデザイン
写真を撮るなら、ぜひアーチや柱の優しい装飾にフォーカスして。全体を1枚におさめ、1階と2階以上との異なる表情を比べるのもいいかもしれません。
「奥野ビル」で銀座アパートメントの面影に出会う
ヨネイビルディングから見える通りをまっすぐに進むと、規則正しく並んだ窓、スクラッチタイルによる味わい深い外観を備えた異彩を放つ建物が立っています。これが、次に紹介する「奥野ビル」です。
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時が止まったような独特の雰囲気を持つ「奥野ビル」
1932年に竣工したこの建物は、かつての名を「銀座アパートメント」といいます。銀座1丁目に建てられた、正真正銘銀座の集合住宅だったのです。当初はスチーム暖房や共同浴場などを完備した先進的な文化アパートメントでした。商業エリアとして発展していた銀座の一角に構えるアパートメントは、きっと誰しもが憧れる住まいだったのではないでしょうか。
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昭和らしさ満載の奥野ビルの管理室
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1階はタイル貼り
そんな銀座アパートメントですが、現在は「奥野ビル」として、画廊をはじめとしたいくつかのテナントが入るビルへと生まれ変わりました。
ちなみに、全景の向かって左側が1932年完成の第1期、2枚の壁を挟んで右側が、その2年後に完成した第2期の建物です。見た目にはさほど違いはありませんが、よくよく見てみると、窓部分の面積や、位置が少し異なることが分かるはずです。
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現役の手動エレベーター
ビル内のテナントに足を伸ばしながら、今も現役で動く手動のエレベーターに乗ってみるのも奥野ビルの楽しみ方のひとつ。外側のドアを引き、内側の黄色の格子ドアを引き、中に入り、外側から順番にまたドアを閉めてお目当ての階へ。自分で開けて自分で閉めて動くこのエレベーターに乗れば、気分は一気に建築当時の明治時代へとタイムスリップするでしょう。
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さびれた雰囲気がいっそうレトロさを引き立てる
クイーン・アン様式の西洋建築「三菱一号館美術館」
奥野ビルを出て京橋駅方面へ進み、次は丸の内へと足を進めていきます。その前に、道中で見られる京橋の親柱にもぜひ注目してみてください。
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道中で出会える京橋の親柱
京橋は、日本橋とほぼ同時期に架けられたとされる、歴史ある橋でした。かつてここに流れていた京橋川をまたぐ橋として活躍していましたが、第二次世界大戦後、瓦礫処理のために川が埋め立てられると同時に、京橋も1959年に取り壊されることになったのです。
そんな京橋の端に立っていた親柱が、この建造物。コンクリート造りのこの柱は、大正11年に建てられたもので、頂部は青銅で作られ、そのすぐ下にはガラスがはめられています。この内部には明かりが灯され、道ゆく人々の道標となっていました。
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京橋のデザインを模した交番
道路を挟んだ向かいには、この親柱のデザインに倣って造られた交番が立っています。
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鍛冶橋通りを進んでいく
鍛冶橋通りを進み、奥野ビルから歩くこと約14分。大きな交差点の先に見えるのが、ジョサイア・コンドル設計の「三菱一号館美術館」です。
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交差点向かいに立つ「三菱一号館美術館」
初代「三菱一号館」の建築は1894年のこと。設計をしたジョサイア・コンドルは、辰野金吾をはじめとする明治建築を作りあげた4人の弟子たちを抱え、日本に西洋の建築を取り込んだ第一人者だったのです。老朽化のため1968年に解体されたものの、コンドルの設計を元に新しく造られ、2010年、同じ地に「三菱一号館美術館」として新しく誕生しました。
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鮮やかなレンガを使った外観は、周囲の目を引く気品の高さを感じさせます。明治時代に使われていたしっとりとした質感を再現するために、中国のレンガ工場で計230万個のレンガをプレス成型で制作。明治時代の図面通りに積み上げ、原設計に忠実に復元をしています。
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質感までも再現したレンガたち
道路に面したエントランスからは、歴史資料室へと入ることが可能。ここには三菱一号館美術館が生まれ変わるまでの歴史や、ジョサイア・コンドルの設計図などが展示されています。
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歴史資料室は自由に閲覧可能
部屋の横には、光が差し込む美しい格子の鉄骨階段が。明治時代、ガス灯のない昼間でも明るさを確保すべく、暗く、窮屈になりがちな階段部分を格子状にし、窓からの採光が空間全体に行き渡るように設計されたのだとか。このような時代背景を踏まえて設計された箇所が、他にも細部に見受けられます。カメラ片手に、ぜひ探してみては。
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格子部分から採光を叶える
低層の歴史建築と高層のビルを繋ぐ「KITTE」
三菱一号館から徒歩約2分、道なりにまっすぐ進むと見えてくる東京駅 丸の内駅舎を通りすぎ、向かうは丸の内駅舎隣の高々としたビル「KITTE」です。
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「KITTE」
旧・東京中央郵便局の建物で、初めて建てられたのは1931年。外観は道に合わせてゆるやかなカーブを描き、その曲線の躯体を柔らかな白のタイルが包む、非常に上品で素朴な建物です。無駄のないシンプルな外観は、真壁造りや障子をはじめとした日本建築らしい意匠を感じます。
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美しい白のタイル。一部新しくなっている
そんな東京中央郵便局の建物が生まれ変わったのは、2013年のこと。旧・東京中央郵便局の建物をなるべくそのまま保存しながら、中央部分を大きく吹き抜けアトリウムで繋ぎ、上に高層ビルを突き抜けるように建築したのが、建築家・隈研吾氏です。
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KITTE内部の吹き抜け
商業施設として新しく誕生したKITTEは、1階が桜、2階を瓦、3階を織物とそれぞれ異なるコンセプトを設けて設計。三角形の不思議な形をしたKITTE内には常にアトリウムによりやわらかな採光がなされ、美しくスタイリッシュな空間へと変貌を遂げました。
そんなKITTEに訪れたら、ぜひ4階に残る旧東京中央郵便局長室へと足を伸ばしてみてください。
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かつての郵便局長室
レトロな趣を残すこの空間には、郵便局長が実際に使っていたものでしょうか、中央に机と黒電話が置かれ、その後ろの窓からは東京駅丸の内駅舎の借景が。椅子やテーブルが置かれた休憩スペースとして活用されており、誰でも見学可能です。窓枠はレトロ感を残すためにムラ塗りにするなど、「あえて」の工夫もみることができます。
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東京駅丸の内駅舎が借景に
商業空間の6階には、屋上庭園の「KITTE ガーデン」が設けられており、ここから東京駅丸の内駅舎を眺めることができます。
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KITTEの屋上ガーデンから望む東京駅丸の内駅舎
「東京駅 丸の内駅舎」の美しさを堪能
最後を締めくくるのは、やはりここ、「東京駅 丸の内駅舎」です。設計は、日本銀行本店と同じく日本近代化建築の父と称される辰野金吾によるもの。日本銀行の堅牢さとは異なり、こちらは華やかな赤褐色と白のレンガを用いた、いわゆるレンガ造の「辰野式」建築です。
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辰野式建築を代表する「東京駅 丸の内駅舎」
当時、日本は西洋からRC造(鉄筋コンクリート構造)が入ってきたはじめで、多くの建物が耐久性に富んだRC造で建てられていたころ。レンガ造は時代遅れと囁かれる時世にも関わらず、辰野は自身の象徴でもあった手慣れたレンガを用いた設計で、日本の首都・東京の玄関口を彩ったのです。
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辰野がこだわった赤褐色のタイル
1914年に開業した丸の内駅舎ですが、関東大震災により屋根の一部が崩れ、1945年の東京大空襲では、建物の3階部分とシンボルのようでもあったドーム屋根が焼け落ちることに。安全性と頑丈さへのこだわりから、名前をもじって辰野「堅固」とも呼ばれていた辰野による設計をもってしても、震災や空襲の被害は免れなかったということです。

かつての姿で再建された東京駅丸の内駅舎
被害を受けてからは建物を2階建てにしたり、ドーム屋根も角ばったデザインのものに変更するなどしてどうにか形を保ってきた丸の内駅舎でしたが、ついに2007年、補修や補強を全てに施し免震工事も行いながら、辰野が設計した当初の丸の内駅舎へと生まれ変わらせるプロジェクトが始動。
2012年、復元が完了し、大正時代に生まれた丸の内駅舎が東京に蘇りました。
細部の造りに目を凝らせるのはもちろん、ドーム部分に位置する、南口改札にも訪れてみましょう。
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ドーム部分に位置する南口改札
東京ステーションホテルのエントランスから2階へと上がれば、そこからドーム部分の床全体を見ることができます。シンプルなイオニア式を思わせるオーダーのほか、天井を彩るレリーフには、日本文化を思わせる十二支がそれぞれデザインされています。華やかなデザインが細部にまで施され、まさにゲストを東京に迎え入れるのにぴったりな場所です。
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天井のレリーフなど細部の装飾にも注目を

支える柱はイオニア式でほどよく上品に
全体の写真を撮りたいなら、KITTEの屋上庭園はもちろん、向かいに立つ「新丸の内ビルディング」のテラスからのショットもおすすめ。まるでジオラマのように、上から丸の内駅舎全体を望むことができるんです。
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東京駅丸の内駅舎とKITTEを1枚に収められる
丸の内・銀座の近代建築から当時の人々の姿に思いを馳せて
東京の玄関口・東京駅 丸の内駅舎をはじめとして、丸の内・銀座エリアには明治・大正時代に誕生したさまざまな建築が残っています。文化の西洋化に伴い、建物にも西洋の様式を取り入れはじめたこの頃。令和時代を迎えた今こそ、当時の人々が憧れた生活と、その基盤を支えた建築たちに思いを馳せてカメラを構えてみてはいかがでしょうか。
丸の内周辺にはほかにも、皇居や明治生命館などレトロさとモダンさを持つフォトジェニックな建築がたくさんあります。スタイリッシュな最新ビルの隙間に、ひっそりと佇む姿は、そこだけ時代が止まったような、不思議な美しさを感じさせます。東京観光の際には、ぜひ建物にも目を向けてみてくださいね。